リレーメッセージ:川見先生

事務局

滋賀県は広く、ST同士が交流できる機会が多くありません。
今回、自由にお話いただく場を作る事で、「滋賀県STってこんな感じなんだ!」と繋がる場となる事を期待し、「リレーメッセージ」という企画を始めました。

・ほっこりエピソード
・心に残った経験
・失敗談や嬉しかった話
・今だから言える出来事 …etc

こういった「よもやま話」が集まり、滋賀県下の現在そして未来のSTへのメッセージとなることを期待しています。

初回は、滋賀医科大学の川見員令先生にお願いしました。
6年前、当広報部が作成に至らなかった会報誌から抜粋します。
会員の皆さんへお届けできないには惜しい素晴らしい内容でしたので、機会を頂き皆さんにお届けできる事を大変うれしく思っています。

今回、快くご快諾頂いた川見先生には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

リレーメッセージ:第1回

「忖度」

 「安倍首相の意向を忖度した結果…」。国会中継で話題になった聞き慣れない言葉、「忖度(そんたく)」って皆さんご存知でしたでしょうか。読書嫌いで漫画すら読まない私にとっては、当然のごとく初めて聞いた言葉です。そんな言葉が2017年流行語大賞に輝いた事は皆さんもご存じの事でしょう。忖度…「人の気持ちを推し量る、人の思いを推測する」という意味だそうです。この言葉って言語聴覚士にとっては、とても密接で重要な言葉であると、改めて感じている今日この頃です。

 さて、言語聴覚士養成校時代または言語聴覚士の先輩方々からは、皆さんもこのように習いましたよね。「わからない言葉はそのままにせず、確認する事が大切」です、と。私は言語聴覚士として働きだした頃には、と言うよりつい最近まで、この「忖度」という言葉をあまり深く理解していなかったように思います。歪みが強くて聞き取れなかった言葉でも、錯語交じりで内容がわからなかった内容でも、また、話の要点がまとまらず取り繕い発話ばかりのお話に対しても、「うんうん」と笑顔で相槌を打ちながら、気が付けば自分が把握でき、こちらがコントロールできる内容で話をついつい進めていました。それが会話をスムースにする秘訣かな、なんて思いながら。「話しにくさの理由は何であれ、話者の意志を尊重するためには、クライアントの生活歴や今の状況を十分に把握し、伝えたい意図を丹念に聞き取り、思いを汲んであげられていたかというとどうだったのかな?そんなに深く考えていなかったのではないかな?」と振り返っています。その場しのぎの応答も会話を円滑に進めるためには必要でもあります。しかし、「コミュニケーション困難を持つ方々に対し、コミュニケーターとして言語聴覚士の役割を果たせていたのか」と、今年の流行語大賞を振り返り、反省する機会となりました。

 忖度する事は、言語聴覚士、会話パートナー、その他の福祉従事者にとって重く深い言葉だと思います。この言葉が持つ本来の意味は、「わからない言葉はそのままにせず確認し、忖度し、会話を行なう事が大切」というものではないでしょうか。我が国も数年後には65歳以上の四人に一人の割合で認知症やMCIがいる超高齢社会に突入するという推計を、厚労省が出しています。重度の認知症や無言症となった方でも少しでも覚醒していれば、コミュニケーションの全機能を失ってはいない、とも言われます。コミュニケーション障害のある方々の支援とは、言語に耳を傾け、非言語に目を向け、その方の意向を「忖度」し、言語聴覚士としてコミュニケーションを支える。この役割がコミュニケーション障害に対する社会福祉への貢献の1つであると考えます。

 “今だから言える”に限った事ではないですが、人を支える職種として社会に貢献できるような職業人を目指して学際的に様々な分野を貪欲に学ぶ姿勢を忘れず、ブラッシュアップしていこうと思います。貢献という形はいろいろあれ、自分がどれだけ人のため、そして社会のためになっているのか。常に謙虚に、そして今まで出会ったクライアント、また、これから出会うであろうクライアントに今まで以上に感謝の気持ちを持って向き合いたいと思います。

 私のつい最近の反省事(つぶやき)でした。この記事を読んだみなさんも、「こんなおっさんSTも、こんな事で反省しているのか」と思い返しながら、日々の臨床に自信を持って取り組んでいただければ幸甚です。滋賀のみなさんは、優秀な言語聴覚士さんばかりです。良い経験をたくさん積み重ねて、コミュニケーション困難に対して社会貢献できる医療福祉人として、言語聴覚士の役割をみんなで一緒に考え、果たしていければと思います。