令和6年能登半島地震避難所支援活動報告
はじめに
今年度、当会の会長が災害リハビリテーション支援に参加しました。
活動報告について、この場をお借りして紹介させて頂きます。
災害リハビリテーションとは?
佐敷会長は今年度、能登半島地震の災害リハビリテーション支援に参加されました。災害リハビリテーションとはどのようなことですか?
災害リハビリテーションはJRAT(日本災害リハビリテーション支援協会 https://www.jrat.jp/ )が担います。
JRATは2011年の東日本大震災をきっかけに発足され、医師、理学療法士、作業療法士、言語療法士等で構成された団体です。
全国47都道府県に地域JRATが組織化されており、滋賀県では滋賀JRATとして活動しています。
JRATの基本方針として、被災者の深部静脈血栓症などの生活不活発病の予防と災害関連死の予防が目的となります。
また、避難所や仮設住宅での段差、手すり、動線等の環境評価を行い、安全に生活していただくように避難所運営者に助言を行います。
災害には時間軸に伴う段階があります。
発災直後の「応急修復期」には、避難所自体もまだ混乱しています。
その中で避難所の環境評価を行い、運営者へのアドバイスや了解を得た上で、応急的な段差解消、手すりの設置などの環境整備を行います。
発災1~3か月の「復旧期」には、廃用症候群や生活不活発病予防の体操指導等を行います。
その後の「復興期」には、発災地域での地域リハビリテーションへ移行するために、行政を含む関係部署と調整を行います。
災害リハビリテーションには下記の5原則があります。
発災直後から介入することが重要になります。
介入についての注意点はありますか?
注意点は下記の表の通りです。
環境整備や動作確認などは1-2回で対応を完結させ、継続した個別のリハビリテーションは行わないことが原則です。
その点が普段のリハビリと異なる点です。
実際の支援は1人で実施するのですか?
支援は必ず3-5名程度のチームで行います。
単独行動は禁止されています。
そのため、活動は相談しながら行い、自分の得意な分野以外は手伝いや記録係としてのサポートにまわります。
また、当然のことながら、SNS等での支援活動についての発信の禁止、活動は必ず石川JRAT災害対策本部の指示に従うことの徹底が求められます。
能登半島地震について
では、能登半島地震についてお聞かせください。
まず地震についてですが。2024年1月1日16:10にマグニチュード7.6 の地震が起こり、最大震度7を記録しました。その後2日0時までの8時間弱で震度5弱以上の地震が9回発生し、度重なる強震により家屋倒壊が広範囲に発生しました。
地震の規模は阪神淡路大震災や熊本地震の数倍ともいわれています。
派遣の調整はいつから始まりましたか?
発災直後から滋賀JRATのコアメンバーで自身の安否確認と、東京本部からの情報共有を行いました。実際に派遣調整を始めたのは1月5日で、各隊員にいつでも動けるように職場と調整してもらいました。
その後の地域JRAT代表会議で派遣エントリー方法の説明が行われ、1月10日にエントリーを行い、1月14日~19日の派遣で1月15日~18日の活動(14,19日は移動日)という流れでした。
実際の活動について
石川県ではどこで活動されましたか?
発災1週間で、石川県は金沢市内のいしかわ総合スポーツセンター(スポセン)に「1.5次避難所」を開設し、半島での被災者を受け入れる準備を整えました。活動は主にここで行いました。
1月14日時点では、自衛隊以外の災害支援チームは被害の大きい輪島市や珠洲市に入ることはできない状況でした。
また、石川JRAT本部は、金沢医大からスポセンの近くにある石川県リハビリテーションセンターへ移転しました。
第1班:応急修復期
実際の1日の流れを教えてください。
私たちが活動した時期は「応急修復期」に当たります。
1日の流れはスライドの通りです。
本部へ集合し、スポセンで打ち合わせ後に活動し、夕方に活動報告書の作成を行いました。
具体的にはどのような活動をされましたか?
スポセンのメインアリーナでは、保健師、看護師、介護士から依頼のあった方へトリアージを行います。
「トリアージ」とは、介入が必要かどうかの簡易な評価のことです。
活動中、他の支援チームから依頼がありますが、判断が必要な案件は即答せず、スポセンのJRAT責任者に報告します。
そのため、いつ、誰から、何を依頼されたかを記載しておくことが必要となります。
依頼のあった方のもとへ伺い、起居動作や摂食嚥下機能の評価を行います。
必要時には歩行補助具の貸し出しやとろみのつけ方や嚥下体操の指導などを行います。
動作時にテントに足が引っ掛かる方に関しては、テント入り口の段差解消を行います。
スポセンにはメインアリーナ、サブアリーナ、マルチパーパスルームと3つの場所があり、メインアリーナは自立度の高い方、サブ・マルチは要介護認定されている方が入っています。
基本的に行うことは同じで、評価と指導が中心となります。
今回、滋賀JRATは活動2日目以降はサブアリーナを中心に活動しました。
サブアリーナの活動は、この様な流れでした。
介入が最初ですと、「流れ」を作成するところから必要になるんですね。
ところで、避難所での嚥下障害の方への食事はどうされていましたか?
栄養士会が嚥下食を提供されていました。
嚥下食は3種類のみです。とろみの濃度調整はできませんので、水分には強めのとろみが付けられていました。
嚥下障害の方はサブアリーナ、マルチパーパスルームの方が多いので、施設で食べていた食形態から1段階落としたものが提供されています。
誤嚥性肺炎予防の観点から、基本的には1.5次避難所では食形態をアップしないことを私から提案し、スポセンで活動するST間で共通認識となりました。
まとめますと、下のスライドの通りになります。
発災2週目では、避難所もまだ混沌としており、ルールも人員も整備されていません。その中での活動のため、この時期の活動は想像以上に疲労が蓄積します。
第2班以降は、この経験から1日短くエントリーすることとなりました。
第2班:復旧期
第2班以降はどこで活動されましたか?
第2班は、医師と理学療法士の計4名で、3月3日~7日まで輪島市で活動されました。
要支援者は1.5次避難所や2次避難所に既に搬送されているため、避難所は概ね安定されており、避難所での活動は手すりの設置程度でした。
主とした活動は、市立輪島病院への引継ぎとその旨を各避難所や行政に伝えることとなりました。
ちょうど、地域への移行期間に滋賀JRATが関わったことになります。
第3班:復興期
第3班は、医師と理学療法士の計6名で、3月13日~17日まで珠洲市で活動されました。
第2班と同様に、段ボールベッドの設置やシルバーリハビリ体操の指導など、避難所は比較的安定していました。
宿泊先は珠洲市総合病院のリハ室で食事は自給自足されていました。
介入時期によって活動がこれほどまでに異なるのですね。
しかも、たった2か月でここまで変わるという点に驚きました。
日本は災害の多い地域なので、避難所支援や復興も他国と比べ、スピーディーです。発災後、迅速に各支援団体が役割を発揮できる体制が整っているとも言い換えることができるでしょう。JRATもその一端を担っています。
避難所では、いかに安全に過ごせるかを考え、深部静脈血栓症などの生活不活発病を予防し、災害関連死を防ぐことが重要です。
STとしては、「誤嚥性肺炎予防」が重要となり、普段行っている摂食嚥下評価や口腔体操などが活かせます。
災害リハは何ら特別なことをするのではなく、普段の仕事の延長線上にあると認識していただくと良いかと思います。
滋賀県の災害リスク
今回、具体的に伺えたことで、災害リハのイメージができました。この様な活動なのですね。教えて頂き、ありがとうございます。
それでは、滋賀県ではどんな災害リスクがあるのでしょうか?
「滋賀県防災情報マップ」で検索してみてください。
以下は私がマップに断層帯を追記した画像です。
滋賀県は琵琶湖を中心に四方に断層があり、どの断層が動いてもマグニチュード7、震度6弱以上の地震が発生します。
滋賀県で震度6弱以上がほぼすべての地域で起こる可能性があるとは知りませんでした!!
平時(災害のない時期)から気を付けることはありますか?
滋賀県は災害が少ないと思われがちですが、地震はいつ起こるかわかりません。普段から地震の備えが必要です。
災害リハの支援活動を行う前に、自身と家族の安全確保が最優先です。
日頃から地震が起こった時の家族との連絡方法を決めておくと良いでしょう。
また、職場との連絡方法の確認も行っておきましょう。
災害時は各施設間の支えあいも重要です。
日頃から近隣施設で顔の見える関係を築いておくことは災害時にも役に立ちます。
災害リハは普段の臨床の延長線上にあるため、平時から災害リハとは何かを研修等に参加し理解しておくと良いでしょう。
平時からの備えが災害時にも役に立つことが改めて分かりました。
ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
災害リハに興味を持たれた方は、滋賀JRATの研修会に参加してください。
おわりに
恥ずかしながら、「災害リハってなにか怖そう」という印象しか持っていなかった筆者です。
しかし今回お話を伺って、災害リハの具体的イメージがわく事で、その思いは払しょくされました。
フェーズで求められる内容は異なるものの、活動自体は私たちSTが普段行っている臨床業務そのままだからです。
まずは小さな1歩として、平時からの備えを家族で話し合ってみようと思います。
今回の内容が、皆様の理解に少しでもお役に立てれば幸いです。